「この世界の片隅で」に見る日常の愛おしさ

上映されると知った日から「みたいなぁ」と思っていた映画「この世界の片隅で」を観てきました♡

ひたひたと押し寄せる戦争という化け物。

それがちょっとずつちょっとずつ日常を窮屈なものにしていくのです。

冒頭で流れるコトリンゴさんの🎵悲しくてやりきれない🎵が映画全体を優しく包み込み、最初から「やりきれなさ」を想像してグッと来そうになりました。

もともとフォーククルセダーズが歌っていたこの歌、いろんな人がカバーしていてそれぞれ素敵なのだけれど、「この世界の片隅で」にはコトリンゴさんのほわっとした歌い方がぴったり。

あどけないというか、言葉足らずというか、感情のトゲがそぎ落とされたような・・・それでもそのあとにようやく残ったかのような、ささやくような歌い方がじわりじわりと心にしみるのです。

その柔らかい声の質が、みごとに主人公すずさんを演じている能年玲奈だった「のん」のまろやかな声とぴったりリンクしているようで、心地よいです。

 

主人公すずさんの幼い頃からドラマは始まります。昭和ひと桁の広島市内江波(えば)という地です。

優しいタッチと柔らかい色使いの絵が、日々の暮らしを大切に生きているすずとその家族のムードをうまく表現しています。

まだ幼さの残る18歳のすずに縁談が持ち上がり、ふるさとから20キロ離れた呉にお嫁にいくことに決まります。

呉(くれ)は言わずと知れた軍港の街。鉄道も呉を通る時は窓に鎧戸(よろいど)がおろされます。軍の機密が漏れることがないようにです。

軍事演習が穏やかに行われているうちは平和のように見えたけれども、だんだんと当たり前が失われていく・・・

そんな中人々は、特に家を守っていた「女たち」は「食べる」ための工夫をいろいろしたのだなぁと、その工夫の数々について映画を観て初めて知ったことも多かったです。

そこら辺に生えている草も、大切な栄養源になったのですね。

この映画が新しいのは、普通は「辛い」「大変な」戦争の事情を、「大変」にフォーカスするのでなく、それすらやわらかく受け入れてしなやかに生活しているすずさんと周りの人々の様子が「愛」をもって描かれていることかなと思いました。

軍港呉にたくさん落とされる焼夷弾や、広島に落とされた原爆、といった事実も描かれながら、最も描きたかったのは、しなやかな生き方なのかなと感じたのです。

最後に流れる「たんぽぽ」という曲はすずさんのための曲だそうだけれど、やわらかくほわっとしながらも、その種はどこまでも飛んで行き、またつながっていく・・・たんぽぽとすずさんの共通点のように思えます。

声高に戦争反対を訴えるというよりは、戦争が奪う日常を描くことで、大切なものがこの日常にあることをを優しく語りかけてくれた作品であるように思います。だからこそ失われてはいけない・・・

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パンフレット最初のページです。

すずさんと、のんと、コトリンゴさんがとけあっているように感じたのでした。

まだご覧になっていない方はぜひ。

この映画、賛同する人たちのクラウドファンディングにより集まった支援金3912万1920円により完成したというのもステキです。

本日もおつきあいいただきましてありがとうございました。