文化の秋にふさわしく、今年もノーベル医学生理学賞を日本の研究者が受賞しました。東京工業大学の大隅良典栄誉教授です。単独での受賞というのは、とりわけ価値あることだと言います。3年連続で日本人から選ばれたということも喜ばしいことですね。
受賞理由は「オートファジー(Autophagy)」という、細胞が持っている細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの解明なのだとか。autoはギリシャ語で「自分自身」を、phagyは「食べること」だという説明が無ければ、洗濯機などで一時流行ったfuzzy(あいまい)とごちゃごちゃになりそうでした。
「自食作用」とも呼ばれるこの作用は、ガンやパーキンソン病・アルツハイマー病にも役立っていくようですね。細胞の掃除のことだという説明で少しわかったような気になっています。
これって自浄作用とはまた違うのでしょうか。生物の細胞って自分で癒していけるものをもともと持っているわけで、そのことの解明であるようにも思います。
その大隅教授が今の若者に何か一言と問われてこんなことをおっしゃっていました。「役に立つ」ことをまず考えずに、好きなこと・本当にやりたいことを追いかけたらよい、役に立つのは100年後かもしれないけれど・・・と語ってらっしゃいました。
高校3年生の時に尊敬していた国語の先生(泉民子先生)が「すぐ役に立つことはすぐに役に立たなくなります。」とおっしゃっていたことを不意に思い出しました。
私が高校生の頃、大流行したのがHow to物の本でした。ちょうどコンピューターが一般に普及する頃でもありました。備え付けの大きな機械で、特殊な人が特別に身に付けた技術をもって使いこなせると思われていた時代でした。
ですから「コンピューターをどうやって使うか」などの本も出回っていたのですが、大切なのは目の前の機械を使いこなす能力ではなくて、機械が変わっても応用できる仕組みがわかる能力、ということだと言われたように覚えています。基礎が大切だと言われた気がしたのです。
大隅教授の研究スタイルは、「これが役に立つかどうかよりも、生物学的に大事かどうか」だと後進の研究者は語っていますね。
おおらかにのびやかにやりたいことをやる、そしてそれが世の中の役に立つことになっていくなんて素敵なことです。今の時代は「すぐに役立つ」ことが求められています。研究費も役に立たないとみなされたり、成果が出ないとみなされるとすぐに削られてしまうという嘆きの言葉をよく耳にします。
そんな大隅教授は「少年のように研究に没頭する人」という評価のほか、「学生と肩を並べてついこの間まで研究していた人」「四つ葉のクローバーを見つけてはプレゼントしていた人」で、奥様のまりこさんは「いたずら好きな人」だと語ってらっしゃいます。
賞金を何に使いたいかの質問には「豪邸も車もいらない、学生を育てるために役立てたい」という内容を言葉を選びながら誠実に答えてらっしゃいました。自宅に学生を招いて奥様が手料理でもてなしているとも聞きました。奥様もまた夫と共に学生を育てている方なのでしょうね。
その大隅教授も昨年の大村先生と同じく「己(つちのと)」の人です。人を育てることに抜群の手腕を発揮するタイプだと言えましょう。人のために、学生たちのためにという姿勢こそ天も喜ばれるものなのだろうなぁとも思います。
今晩はここまでです。
台風の被害が出ませんように。
本日もおつきあいいただきましてありがとうございました。