ゆるすこと

「あさが来た」が面白いです。NHKの朝ドラで、いつも前つんのめりに新しいことに興味を持って、いつの間にか行動に移している主人公の「あさ」が「びっくりぽん!」な面白さです。

 このドラマは幕末から明治にかけての大阪が今のところの舞台ですが、両替屋の娘「あさ」が同じく老舗両替屋の加野屋に嫁ぎます。夫は人情に厚いけど遊び人、夫の父親が「あさ」の行動力と先見性を認めて伸ばします。

 さて加野屋には昔、暖簾分け後に倒産し、失踪した大番頭がいました。その大番頭の息子が長じて、父を見捨てた加野屋に恨みを持ち続けて暮らしていました。偶然にも「あさ」が手掛ける九州の炭鉱で名前を変えて働いていた目つきの悪い男こそ、その息子だったのです。そしてその息子は、恨みからわざと落盤事故を引き起こします。

 その事実を本人の告白から知った「あさ」の夫は、深く同情します。幼馴染みでもあったのに守ってやれなかったからです。優しさいっぱいです。「あさ」は真っ直ぐな性格のまま、厳しくたしなめます。個人の感情より仕事する者の視点で叱ったところが立派です。その結果、加野屋の主人(「あさ」の義理の父)と対面することになります。

 加野屋の主人(近藤正臣)は、「おとうちゃんを助けられへんですまなかった、わたしの力不足や」と意気込んできた男にまず謝るのです。さらに、大番頭だった、男の父親がどんなに優れた仕事をしていたのか、大福帳を見せて懐かしそうに語ります。帳簿をいかに丁寧につけていたか、帳簿の文字をいとおしそうにする近藤正臣の演技が泣かせます。これで男の気持ちはほどけていたと思いますが、さらに、大番頭が好物だった饅頭を一緒に食べようと誘います。ただの饅頭じゃありません。「ふなはし屋」の黒糖饅頭をわざわざ用意してもてなしたのです。

 自分に長年恨みを抱き続けてきた相手の過ちにはひとことも触れずに、深い恨みの思いを昇華させてしまった。こんなことのできる人にいつかなりたいです。

 連続テレビ小説「あさが来た」第十二週「大阪一のおとうさま」(第70回)。近藤正臣の名演技を何か機会がありましたら是非ご覧ください。