オバマ大統領が広島を訪問することが決まりました。現職のアメリカ大統領では初の被爆地訪問です。ケリー国務長官や駐日アメリカ大使のキャロライン・ケネディさんの陰の力もあったのでしょうが、画期的〈epoch making〉なことですね。核のない新しい時代を築いていくきっかけとなりますように。
さて、今日は名前のお話です。名前は、親から、生まれてきてくれた子どもへの最初にして最大の贈り物のように思います。幸せになってほしい、優しい子になってもらいたい、健康に育ってもらいたい・・・などの願いをこめて名づけというのはされてきたものです。
それが、最近は人と違った個性的な名前をつけたいという思いが強いのか、「キラキラネーム」または「ドキュンネーム」と呼ばれるものが実に多くなりました。とある幼稚園では漢字のままだと読めないとのことで、持ち物全てひらがなで書かせるというところもあるのだと聞きました。実際に、「増えてきたなぁ」という思いは確かにあります。名づけは自由でよいと思いますが、明らかに意味を間違ったかなぁというものは本人が気の毒です。具体例を挙げるのは控えますね。
その「キラキラネーム」を好んでつけた人に、明治の大文豪のひとり森 鷗外がいます。
現在の島根県津和野で生まれた鷗外の家は代々津和野藩におつとめする医者でした。将来を期待されて英才教育を受けた成果と生まれ持った素質で、10歳で上京するとすぐさまドイツ語を学び、明治6年に年齢を2才偽って12歳で今の東京大学医学部に入学します。
そして19歳で卒業後、陸軍省に勤めて2年経った明治17年、ドイツへの留学を命じられます。ドイツでは学問もするし、交際も広くしてドイツ生活を堪能したといってもいいかもしれません。付き合った女性もいた程です。そこが、イギリスに留学してノイローゼになってしまった漱石と異なるところです。
ドイツばかりか広くヨーロッパを愛した、いえかぶれたであろうことは、子どもの名づけから見て明らかです。
まず長男の名前は 於莵〈おと〉←オットー皇帝から
次に長女は 茉莉〈まり〉←マリー・アントワネットから
次いで次男が 不律〈ふりつ〉←フィリップ王子から
そして次女が 杏奴〈あんぬ〉←アン王女から
最後に三男が 類〈るい〉←ルイ王から
という具合に、西洋かぶれもいいとこといった名づけをするのですね。この中で「あれ?」と思った方も多いかと思いますが、次男の方のお名前の「不」は下にきたものを打ち消す意味の文字ですよね。「不信」「不親切」「不可能」などなど・・・「不」をつけてよい意味になるのは「ふたつとない」という意味になる「不二」など、きわめて少ないかと思います。
明治40年8月に生まれた不律さんは、翌41年2月にわずか生後半年の幼さでこの世を去ります。切ない話です。
キラキラネームをつけたのは鷗外ばかりではありません。「みだれ髪」で有名な女流歌人の与謝野晶子もまた西洋にかぶれた一人です。12人もの子だくさんだった彼女は、四男にアウギュスト、五女にエレンヌという名前をつけています。アウギュストという名は、画家のアウギュスト・ルノワールからつけたと言われています。
つけられた名前はそ人のふさわしいものが自然とつくとも言いますけれども、「黄熊」で「ぷう」とか「腥」を「月」と「星」と勘違いして「きらら」とか名付けると本人は泣いちゃうかもしれませんね。「腥」は肉が長く経ってしまって腐っているから「なまぐさい」という意味なのですものね。
個性豊かな名前はステキだけれど、奇抜さばかり競うような名前はどうなのかなと思うこの頃です。
今日もおつきあいいただきましてありがとうございました。